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大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)54号 判決

大阪市生野区桃谷一丁目一〇番三一号

原告

藤井彷夫

右訴訟代理人弁護士

花村哲男

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

被告

生野税務署長 森垣省吾

右指定代理人

山本恵三

中村悟

近藤宏一

角佳樹

主文

一  原告の訴えのうち、被告が平成元年九月一四日付けでした原告の昭和六一年分所得税の過少申告加算税の賦課決定の取消を求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和六一年分所得税について、被告が平成元年九月一四日付でした更正及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。

2  原告の昭和六一年分所得税について、被告が平成二年一一月一六日付でした過少申告加算税の変更決定を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告が昭和六一年分の所得税につき、納付すべき税額を零円として確定申告をしたところ、被告は、平成元年九月一四日付で給与所得の金額を一〇九万五〇〇〇円、分離長期譲渡所得の金額を一一九六万七七四二円、納付すべき税額を二二九万一〇〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を一一万四五〇〇円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

2  そこで、原告は、平成元年一〇月一二日、被告に対し異議申立をしたが、被告は、平成二年一一月一六日付で過少申告加算税の額を二〇万四〇〇〇円とする変更決定(以下「本件変更決定」という。)をしたうえ、同年一二月六日、右異議申立を棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、平成二年一二月二一日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成三年六月二〇日、これを棄却する裁決をした。

3  よって、原告は、本件更正及び本件賦課決定並びに本件変更決定(以下、これらの処分をまとめて「本件各処分」という。)の取消を求める。

二  被告の本案前の主張

過少申告加算税の賦課決定について、その金額を増額する変更決定がなされた場合には、当初の賦課決定は変更決定に吸収され、以後独立の行政処分たる性質を失い、取消訴訟の対象とはならないと解すべきである。したがって、本件賦課決定の取消を求める訴えは不適法である。

三  請求原因に対する認否

全て認める。

四  抗弁(本件更正及び本件変更決定の適法性)

1  総所得金額

原告には、中河綜合企業組合からの給与所得があり、その昭和六一年分の収入金額は一八〇万円であるから、それに係る給与所得の金額は一〇九万五〇〇〇円であるところ、ほかの所得はないので、原告の昭和六一年分の総所得金額は、右給与所得の金額と同額となる。

2  分離長期譲渡所得金額

(一) 譲渡収入金額

原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を川上健治ほか七名とともに各自持分九分の一で共有していたが、昭和六一年六月二五日、これを右八名と共同して、隅田啓生ほか一名(以下「隅田ら」という。)に対し、代金一億三三六九万八五〇〇円で譲渡した。原告の右売買による譲渡収入金額は、右代金のうち、原告の本件土地に対する持分九分の一に相当する一四八五万五三八九円である。

(二) 必要経費

原告に係る本件土地の取得費は、租税特別措置法(ただし、昭和六三年法律第四号による改正前のもの)三一条の四第一項、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱について」通達三一の四-一(ただし、昭和六一年一二月二二日直資三-七ほかによる改正前のもの)及び所得税法六〇条一項一号に基づく概算取得費で、右(一)の譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じた七四万二七六九円である。

原告に係る本件土地の譲渡に要した費用は、測量費等六四万九二三〇円及び農地転用費用等五万〇七七〇円の合計七〇万円のうち、原告の本件土地に対する持分九分の一に相当する七万七七七八円である。

原告に係る取得費に加算される相続税額は、租税特別措置法三九条一項により、本件土地持分九分の一に係るところの相続税額一〇六万七一〇〇円である。

(三) 特別控除額

租税特別措置法(ただし、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)三一条一項、四項に基づき、一〇〇万円となる。

(四) 分離長期譲渡所得金額

以上によれば、原告の昭和六一年分の分離長期譲渡所得金額は、右(一)の金額から右(二)、(三)の合計金額を差し引いた一一九六万七七四二円となる。

3  所得控除額

原告の昭和六一年分の所得に係る社会保険料控除、生命保険料控除、損害保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除の金額の合計額は、一六〇万七七四一円である。

4  課税長期譲渡所得の金額

原告の昭和六一年分の所得税に係る課税標準は、総所得金額及び分離長期譲渡所得金額から、所得控除額を順次控除して計算される。これによれば、所得控除額が総所得金額を上回るので、課税総所得金額は算出されず、前者が後者を上回る金額をさらに分離長期譲渡所得金額から控除して、課税標準である課税長期譲渡所得金額を算出すると、一一四五万五〇〇〇円となる(なお、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切捨てている。)。

5  納付すべき税額

原告の昭和六一年分の所得税に係る納付すべき税額は、右4の一一四五万五〇〇〇円に一〇〇分の二〇の税率を乗じて計算した二二九万一〇〇〇円となる。

6  過少申告加算税

平成二年一一月一六日付でなされた過少申告加算税の賦課(変更)決定は、国税通則法六五条一項、二項に基づくものであり、かつ、本件においては同条四項、五項に該当する事実がないから、右決定は適法である。

7  以上のとおり、本件更正及び本件変更決定は適法である。

五  抗弁に対する認否

1  抗弁1は認める。

2  同2は否認する。

3  同3は認める。

4  同4ないし6は争う。

六  原告の主張

1  原告、川上健治(以下「健治」という。)、辻初子、川上君子、上木美代子、川上次夫、川上スゞ子、井上シマエ、今井美智子の九名(右九名のうち健治を除くその余の者を、以下「原告ら」という。)は、昭和六〇年七月三一日に死亡した川上安太郎の共同相続人であるが、健治及び原告らは、健治が本件土地を含め相続財産中の不動産全てを相続する旨の遺産分割協議を行った。

2  その際、健治は、原告らに対し、自分が相続財産中の不動産全部を相続する代わりになにがしかの現金を相続による取分として原告らに与えるが、ついては所得税を安くするため、本件土地を健治及び原告ら全員で相続し、共同で売却したことにしてその原資を調達したい旨申出、原告らはこれに同意した。

3  そこで、健治及び原告らは、本件土地については健治及び原告らが持分各九分の一の割合で共同相続する旨の虚偽の遺産分割協議書を作成したうえ、原告らは、健治が本件土地を健治及び原告らの共同名義で隅田らに売却するにつき、健治に協力した。

4  以上のとおり、原告が本件土地を相続により取得したことはなく、したがって、本件土地を売却してその代金を取得したこともないから、それを前提とする本件各処分は違法である。

七  原告の主張に対する被告の認否

1  原告の主張1のうち、健治及び原告らが昭和六〇年七月三一日に死亡した川上安太郎の共同相続人であることは認めるが、その余は知らない。

2  同2は知らない。

3  同3のうち、健治及び原告らがその主張の遺産分割協議書を作成したこと、原告らが本件土地の賣買に関与したことは認めるが、その余は否認する。

4  同4は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録を引用する。

理由

一  本案前の抗弁について

税務署長は、過少申告加算税の賦課決定をした後、納付すべき税額が過少であることを知ったときは、その金額を増額する変更決定をすることができるが(国税通則法三二条二項)、右変更決定は、納税者の納付すべき加算税の額を見直し、当初の賦課決定に係る税額を含めて全体としての加算税の額を確定する処分であり、当初の賦課決定は変更決定の処分内容としてこれに吸収されて一体となると解される。したがって、当初の賦課決定は、独立の行政処分たる性質を失い、取消訴訟の対象とはならないと解すべきであるから、本件賦課決定の取消を求める訴えは不適法である。

二  請求原因及び抗弁1、3の事実は当事者間に争いがない。

三  そこで、原告に本件土地持分九分の一の譲渡収入が認められるか否か(抗弁2(一))を検討する。

1  健治及び原告らが昭和六〇年七月三一日に死亡した川上安太郎の共同相続人であること、健治及び原告らが本件土地を持分各九分の一の割合で共同相続する旨の遺産分割協議書を作成したことは当事者間に争いがない。

2  乙一ないし三、五ないし七(枝番を含む)及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和六一年一月二〇日、健治及び原告らは、川上安太郎の相続財産のうち、本件土地は、健治及び原告らが各九分の一の持分割合で相続するが、その余の財産のうち、六筆の土地、二筆の土地の各二分の一の持分、二筆の土地の耕作権並びに二棟の家屋は健治が、三筆の土地の各二分の一の持分及び現金・預貯金は川上君子が、二筆の土地及び一棟の家屋は川上次夫が、一筆の土地の二分の一の持分は川上スゞ子が、それぞれ相続する旨の遺産分割協議書を作成した。

(二)  昭和六一年一月三一日、右(一)のとおりの遺産分割を前提とする相続税の申告書が所轄税務署に提出された(乙七の「相続税の申告書」(写)は、原告以外の申告者の氏名を削除したものであり、これにより申告された遺産分割の内容を的確に把握することは困難であるが、その八枚目及び九枚目に記載された「財産の明細」及び「分割財産の価額」欄と乙三の一の「遺産分割協議書」を比較対象すれば、右協議書における遺産分割の内容と申告に係るそれとが同じものであったことが推認できる。)。

(三)  本件土地は、もと川上安太郎の所有であったが、健治及び原告らは、昭和六一年二月二七日、本件土地について、昭和六〇年七月三一日相続を原因として、川上安太郎から健治及び原告らに対し持分を各九分の一とする所有権移転登記を経由した。

(四)  健治及び原告らは、本件土地を一億三三九六万八五〇〇円で隅田らに譲渡する旨の昭和六一年四月一日付売買契約書を作成した。

(五)  健治及び原告らは、昭和六一年六月二六日、本件土地について、昭和六一年六月二五日売買を原因として、健治及び原告らから隅田らへの所有権移転登記を経由した。

3  以上認定の事実に原告本人尋問の結果を総合すれば、健治及び原告らは、真実右(一)の内容の遺産分割協議を行ったうえ、隅田らに対し、本件土地を共同して代金一億三三六九万八五〇〇円で売却し、原告は、そのうち自己の持分九分の一に相当する一四八五万五三八九円の代金債権を取得したものと認めることができる。

4  なお、原告は、真実は、健治が本件土地を含め相続財産中の不動産全てを相続する旨の遺産分割協議が調っていたのであり、本件土地を健治及び原告ら全員で相続する旨の遺産分割協議書は、「原告らに対する分配金の原資として本件土地を売却するが、ついては所得税を安くするため、本件土地を共同で相続したことにしたい」との健治の提案に従って作成された内容虚偽のものである旨主張するが、原告本人尋問の結果その他本件全証拠によるも原告の右主張事実を認めるに足りない。

四  右三で認定説示したとおり、原告は、昭和六一年中に本件土地持分九分の一の売買により一四八五万五三八九円の収入を得たものであるところ、乙七ないし九並びに弁論の全趣旨によれば、必要経費は被告主張のとおり合計一八八万七六四七円と認められるから、原告の昭和六一年分の分離長期譲渡所得金額は、右収入額から右必要経費の合計額及び特別控除額一〇〇万円を控除して、一一九六万七七四二円と算定される。

そうすると、原告の総所得金額(抗弁1)及び所得控除額(抗弁3)は当事者間に争いがないから、これらの金額を前提として国税通則法、所得税法、租税特別措置法(いずれも当時のもの)の関係規定を適用して計算すれば、原告が納付すべき税額及び過少申告加算税額は、本件更正及び本件変更決定のとおりである。

したがって、本件更正及び本件変更決定は適法である。

五  よって、原告の訴えのうち本件賦課決定の取消を求める部分は、不適法であるからこれを却下し、本件更正及び本件変更決定の取消を求める請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 庄司芳男 裁判官 井田宏)

別紙

物件目録

所在 八尾市東山本町三丁目

地番 六九番

地目 田

地積 六七九平方メートル

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